高齢者を取り巻く現状

 今の住宅が老人にとって暮らしにくく、介護をする人にとっても不便であることが挙げられます。 介護といっても、高齢者が10人いれば10通りです。床の段差などのバリア(生活の支障となる障壁)を取り除くことや手摺を設置することなどはもちろん大切なのですが、それだけでは不十分です。

 若い時はなんでもなかった住宅でもほとんどの家が高齢者や障害者にとって使いにくく苛酷な住宅になっているのです。わずかな床の段差につまずいて骨折したり、浅い湯船で溺れたり、若い頃にはとても考えられないようなことが起こります。家庭内の事故で一年間に六千人が亡くなっています。

 普段若い人は気がつかなくてもご家庭のお年よりは困っているかもしれません。是非この機会に住宅の危険ゾーンをチェックしてプチリフォームしてみてはいかがでしょうか。あまり大きな金額を掛けなくてもきっとすばらしい家になるはずです。

高齢者の事を考えたリフォームのポイント

体をうごかしやすい環境をつくる

 体の不自由な高齢者はつい部屋に閉じこもりがちで、性格も塞ぎがちになり動かなくなっていきます。そうなると、筋力が衰え、運動機能が低下してついには寝たきりになってしまいます。寝たきりにさせないためには、室内と廊下の段差をなくし、滑りにくい床材に変更することが絶対です。寒さは筋肉を堅くし、これが機能低下の原因となりますので、室温を快適に維持する家の断熱・気密化とはいわないまでも、居間の断熱・気密化も可能なら行いましょう。

家族とのコミュニケーションを大切に

 高齢者にとって家族間のコミュニケーションが一番大切です。一緒にいない時でも家族の気配が感じられるような工夫が必要です。日本の住宅では衝立やふすま、障子などで空間を仕切る伝統があり、家の中での気配を感じることができました。できるだけ開放的にした上で、プライバシーも守る。そんな日本人独特の感覚を大事に取り入れたリフォームをしたいものです。

認知症には部屋を変え過ぎないこと

 認知症の高齢者にとって大切なことは住み慣れた環境を維持することです。家族としては、思い切って室内を改装して最新器具なども取り入れたいところですが、混乱が逆効果を招く場合があるので注意が必要です。環境の変化から記憶が混乱して窓から外へ出ようとした結果、転落死亡事故に至った事例さえあります。また、環境が変わったことで、精神的に“不安”な状態になり、認知症症状を更に強くする場合もあります。 このようなケースでは、住居をリフォームする際に、部屋の雰囲気をがらりと変えることは避けた方がよいでしょう

高齢者にやさしいプチリフォーム
その1 玄関アプローチの手摺
玄関までの階段があるときは、手摺の設置を検討してみましょう。買い物帰りなど重い荷物を持っているときや、靴を履きなおしたり、荷物を持ち替えたりと玄関を出た後でも体を支えることが意外に多いので助かります。
その2 玄関の手摺とベンチ
 玄関で履物を履いたり脱いだりするときや上がり框に上がる時は、片手を支える手摺が一つあると便利です。あまり大きなものを壁に沿ってまんべんなく付ける必要はありません。小さなものでいいですから使い勝手の良い位置に一つあれば十分です。設置のポイントはあくまでも使うお年よりの身長にあわせた高さに付けることです。

その3 トイレの改装

 トイレは自立して使用することが最も望ましい空間です。トイレで家族に迷惑をかけたくないというのは誰もが持つ偽らざる本音でしょう。リフォームとしては、和式便器の場合は洋式便器にし、加えて暖房便座タイプへの変更を最優先で検討しましょう。さらに玄関同様手摺の設置が考えられます。洋式便器で立ち座りを補助する手すりを設置すると安心です。いずれも簡単な工事で一日で出来上がります。

その4 浴室、階段

          
家庭内での死亡事故で最も多いのが浴室と階段です。浴室では急激な温度変化が原因で意識を失い溺れてしまったり、床が滑って転倒する事故が多く、階段では転落事故がほとんどです。ユニットバスへの変更など大規模な改修工事をするのも一つの方法ですが、手摺や滑り止めマットの設置だけでもほとんどの事故は未然に防げるのです。高額な工事はついつい億劫になりますが、手摺の設置は費用も工期もあまりかからないため気軽にできます