夏の宵

2004年4月、念願の作品集『陽だまりの想い』を自費出版した。
作品一つ一つに、季節の風や光、温もりまでも考えて
撮影してくださった写真家の石丸孝二さん、
いつも辛口の批評ばかりしている妹が、私の思いを言葉にし、作品に添えてくれた。
素人の私たちにプロの目線でアドバイスしてくださった北星社の茨木隆宏さん、
完成するまでのほぼ一年間、骨身を惜しまず協力してくれた夫、
多くの人に支えられ、
とてもすてきな一冊にまとめることができました。
幸運にもその本が新聞に紹介され、
たくさんの思いがけない出会いに恵まれた。
最も印象に残っているのは、県立山崎高校から総合学習の時間に話をする、という
今までに経験のない依頼だった。
10代の若い世代の人達に、私の作品を一体どう紹介すればよいのか。
私の人形はあの昭和という時代を共有した人達には共感を持って見てもらえるが、
今の高校生が、見たことも経験したこともない生活の中で、
あの情景をどう受けとめてくれるのか?
この時も、悩みに悩んだ末、妹の「やってみたら!」という無責任な一言で決心がついた。
授業では、「村ではじめて」「夏の宵」など数点を展示し、昭和30年代の話をした。
その後で、和紙の魅力を味わってもらうため、年賀状作りをした。
ところが、
私の心配をよそに、生徒達の反応はとてもよかった。
「物はあまり無いけれど生活を工夫して暮らしていたのだと思う。」
「いつも家族や近所の人たちが集まってとても暖かい感じがする。」
「生活すべてがとてものんびりしているようでいいなあ。」
私は、生徒達が書いてくれた感想を読んで本当に嬉しくなった。
私のつくってきた人形は、ただ懐かしいだけではなく、私が作品に込めた情景やぬくもりを、
あの昭和という時代を共有しない若い世代も同じように感じてくれるんだという嬉しさだった。
和紙についても、
「これが紙?と思うほどの色や手触りにびっくりした。」
「和紙を使った年賀状作りが楽しくて夢中になった。」
など、
和紙の持つ暖かさや質感を実感してくれたようだった。
どこかでまた和紙に触れる機会があったら、
その美しさに目を止めてくれるのではないかと思えた。
決してうまくはなかったであろう授業に、こんなすてきな感想を寄せてくれた生徒達と、
こんな貴重な体験の機会を与えて下さった山崎高校の先生に本当に感謝します。
岩田さんから頂いた宿題がこういう形で少しだけ伝えられたのではないでしょうか。